「英國」


会議が終わり、書類をまとめているときに後ろから声をかけられた。
こんな呼び方をするのは、一人しか思い浮かばない。
しかし、彼が自分から話しかけてくることなんて、果たして今まで何度あったことだろうか。
一瞬のうちにそんなことを考えつつ、振り向いた。そこに立っていたのは、案の定中国であった。
予想していたこととはいえ、自分のその考えが当たっていたことに僅かな驚きを抱く。
だが、よくよく考えてみれば今は会議が終わった直後。
先ほどまでの議題について、何か言いたいことがあるのかもしれない。
それならば、相手が自分に話しかけてきたことにも頷けた。


「何だ、さっきの会議のことか?なにか言いたいことでも…」
「明日の夕方、暇あるか?」
「・・・……は?」

しかし彼の口から紡がれた言葉は、全く予想外のもので。
一瞬、脳がフリーズする。

「い、いや…特に用事はないが…」
「なら、我の家に夕飯食べに来るよろし」
「え?」
「この間の礼ある」

脳が正常な機能を果たすようになるまで、わずかな間が空いた。
この間の礼、と言われ、一週間前のことを思い出す。
しかし、あれは自分が強引に誘った(というより、ケンカを売った)ようなもので、まさか守銭奴である相手から、礼なんて言葉が出るとは思わなかった。
戸惑いと驚きで何も言えないでいると、相手はきっと鋭い目でこちらを睨む。

「勘違いすんじゃねーあるよ。お前に貸しを作っておくのが嫌なだけある」

だからこれで、貸し借りなしある。
中国はそう言うと、踵を返してすたすたと歩いていってしまった。
正確な時間も聞いていないし、そもそもまだ行くとも言っていないというのに。
だが、わざわざ呼び止めるもの気が引けた。

とりあえず、適当な時間に行けばいいか、と考えて、会議室を後にした。



次の日



080923*水霸