俺が降伏をしてから、長い月日が流れた。
そうは言っても、それは人間の感覚としてのものであり、国である俺にとっては、あっという間だった気がする。
結局、ヴェネチアーノも枢軸国を離れるとこになり、数年して、戦争は終わった。
戦争自体は終わっても、その爪痕は深く、復興までに長い時間を要した。
建物が立ち並び、人の傷が癒えたとしても。心の傷も、犯した罪も、決して消えることはない。
「ヴェネチアーノ」
「兄ちゃん」
弟と会うのは、久しぶりだった。
兄弟だというのに、話す際の気まずさは消えない。
それを感じているのは、俺だけなのかもしれないが。
戦争が終わって時間が経っても、あの時の裏切りが暗い影を落としたまま、ヴェネチアーノとしっかり向き合うことができずにいた。
簡単に仕事上の話をした後、ヴェネチアーノはふと窓の外に視線を移した。
「兄ちゃんのところも、だいぶ賑やかになってきたね」
「そう…だな」
「……兄ちゃん」
「ん?」
「……まだ、戦争のときのこと、気にしてる?」
いきなり核心をついてきた相手の言葉に、ロマーノは何も言えなくなる。
暫く、沈黙が流れた。
「…そんなに、自分を責めないで」
その沈黙を破ったのは、呟きのような、ヴェネチアーノの言葉だった。
驚く俺に視線を合わせ、ヴェネチアーノは微笑んだ。
「過去をなかったことにはできないけれどね、過去を過去にしてしまうことはできると思うんだ。」
大事なのは今だよ、と付け足すと、ヴェネチアーノはにっこり笑う。
「兄ちゃんは裏切った、って言うけどね、俺は兄ちゃんがすっごい頑張っててすっごい悩んでて、その結果だったんだって知ってるから」
兄弟やねんから、イタちゃんもロマーノの気持ち、ちゃんとわかってると思うで。
いつかのスペインの言葉が、頭をよぎる。
「だから、もう大丈夫だよ。」
その一言に。
胸の奥にあった黒くどろどろしたものが、溶けていくような感覚を覚えた。
ヴェネチアーノはそう言い終わると、立ち上がっていつものようなしまりのない笑顔を浮かべ、口を開いた。
「それよりシエスタしようシエスター!あ、俺久しぶりに兄ちゃんの料理食べたいなー」
それは、きっとこれ以上この話題に触れないための、あいつの優しさで。
「チクショー…」
弟の言葉に、行動に、目頭が熱くなるが、それを必死で堪える。
そして、同じように椅子から立ち上がると、相手の言葉に答える。
「お前に食わせる飯はねーよ」
「ヴェー!?」
泣きそうな声を出す弟をそのままに、出口に向かう。
しかし、ドアノブに手をかけたところで立ち止まり、後ろを振り返った。
「…今日だけだかんな」
俺の答えを聞くや否や、ヴェネチアーノは泣きそうな顔から満面の笑みへ表情を変える。
そして、気づいたときには自分と同じ髪の色が視界いっぱいに広がって。
懐かしいぬくもりに、包まれていた。
***
もう一つの伊兄弟の話と矛盾が生じるような気もしますが、こちらも書きたかったネタだったので一気に書かせていただきました。
でもこの短さはさすがにどうなのかな、って感じです正直…。と一緒にしてもよかったかな。
二人が会う理由が仕事しか思いつかなかったのでそれにしましたが…二人が真面目に仕事の話なんてするんですかね…ちょっと想像つかない感じもします。
080402*水霸