ケンカの原因なんて、覚えていない。
いつものようにあいつがセクハラしてきたか、いつものようにあいつが何か言ってきたか、そんなところだろう。
(そういうことが、日常茶飯事になっている時点で、おかしいと思うのだが。)

相手に罵詈雑言を浴びせている途中、あいつが口を開いた。


「俺、思うんだけどさ」


先ほどまで笑っていたくせに、その表情はどこか真剣そうなもので。
思わず口を閉じてしまう。
すると、相手は言葉を続けた。

「恋愛って足し算引き算じゃないと思うんだよなー」

いきなり何言い出すんだお前に恋愛なんて言葉似合わねぇよ死ね変態、と罵ってはみるものの、
そんなのは俺が何度も口にしている言葉で――
―ようするにあいつも言われ慣れている言葉で。
そんな言葉にあいつが傷つく訳もなく、ひでぇなぁ、と苦笑いを浮かべられるだけで終わってしまった。





「…で、どういうことだよ?」
とりあえず、相手の言葉の意味がよく分からなかったので、そう尋ねてみる。

「例えば誰かを好きになるとする。好きになれば、当然一緒にいたいと思う。」
お前の場合は一緒にいる云々じゃなく速攻で手出すだろ、と突っ込みたくなるのをを我慢して次の言葉を待つ。

「で、一緒にいるうちに相手の知らなかったところが見えてきて、浅く付き合ってた頃は知らなかった、
嫌いな部分も見つかるかもしれないだろ?」
「あぁ、かもな」
どこか諭すような口調で言う相手が何だかムカついて殴りたい気持ちで一杯になるが、それを必死で抑え、
相槌を打つだけで留める。
そして、視線で続きを促す。

「でも、だからって好きなところが減るわけじゃない。
好きなところは好きなところ、嫌いなところは嫌いなところ、って残る訳だ。
好きなところが5つ、嫌いなところが3つ、だから好きが2で、相手のことが好き。
――恋愛って、そんなもんじゃないだろ?
むしろ目につくのが嫌いなところばっかりでも、何故か相手のことを好きになってることもある。」



なるほど、だから「恋愛は足し算引き算じゃない」という訳か。

と相手の言葉に納得しかけるが、相手が何故いきなりこんな話題を出したのか、まだ分からない。
眉を顰めて、再び相手に問いかける。




「…結局、何が言いたいんだ?」
「つまりー」

今までにないほど極上の笑顔を浮かべて、右手の人差し指を立てて、相手は答える。




「お前がどんだけ俺の嫌いなところを挙げたところで、それが『お前が俺を好きじゃない』っていう証拠には
ならない、ってことだよ」
「死ね」




言葉と共に、拳を繰り出す。拳は見事左頬にヒットした。
相手は頬をさすりながら、「連れねぇなぁ」なんて呟いている。

「俺の美しい顔に傷が残ったら、世界中の女の子たちが悲しむだろー?」
「おっさんの顔に傷が残ったところで、気にする奴なんかいるかよ」

俺は踵を返すと、大きな足音を立てながら、ドアへと向かう。
てめ、おっさん言うな!なんていう言葉が聞こえた気がするが、扉を思い切り閉めてそれを無視する。







廊下を歩いていき、途中で歩を止めると窓ガラスに視線を移す。
そこには、予想通りの顔をした自分がいて、思わずガラスから目を背ける。

(―――何あんな言葉に過剰反応してんだよ、俺は)

たかだか「自分が相手を好きではない、ということが証明できない」、と言われただけだ。
別に、好きではないイコール相手のことが好きだ、と直結するわけでもない。
それに、お前なんか嫌いに決まってる、と断言することもできたはずだ。なのに。

(どうして、否定しきれねぇんだよ…)

とりあえず、行き先も決めずに再び歩き出す。
…相手に、この顔を見られていないことを願うばかりだ。







***








「ったく、ドアにあたるのはやめろよなー…」

イギリスが行って暫くしてから、頭を掻きながらドアへ向かう。
一応、ドアは壊れてはいないようだ。
あのほっそい体のどこにあんな力があるんだか、不思議でならない。
そのことを言うといつもに増して怒り狂うのは、恐らく自分でも体格のことを気にしているのだろう。
そんな分かりやすい反応ばかりするから、それが面白くて俺がつい何度もからかってしまっているのを、
あいつは気付かないのだろうか。



「それにしても」

先ほどの相手の反応を思い出し、思わず笑いがこみ上げてきて、一人くつくつ声を漏らす。
旗から見たら怪しい光景だろうが、そんなことは気にしない。
(大体、この屋敷の中には俺とあいつしかいないんだから、気にする必要もない。)

「素直じゃないよな、あいつも。顔真っ赤にしてたら、バレバレだっつーの」
まぁ、そこが可愛いんだけど、なんて相手がいないのをいいことに笑いながら呟く。
結局、相手は自分の言葉を否定しなかった。
自分の気持ちに正直になることは、料理と同じくらい苦手にする男だ。
今は、このくらいで満足しておくことにしよう。




「さーて、お坊ちゃんのご機嫌取りにでも行きますか」



ぐっと伸びをすると、部屋から出て、廊下を見渡す。
このくらいのケンカはいつものことだ。そして、出て行った後に行く場所も、見当がついている。
追いかけて適当に謝って、あとは極上の料理でも用意すれば、いつものように文句を言いながらも食べてくれるのだろう。
そしたら、後は。


「たまには、素直になってみるかな、俺も」

からかうでもなく、冗談も言うでもなく。
たまには、まっすぐ言葉をぶつけてみようか。

その後の相手の反応を想像して、また笑いを零す。
恐らく、動揺して真っ赤になって、何もいえなくなってしまうのだろう。



結局、嫌いなところがいくつあろうが、関係ない。
――好きの比重が、大きすぎるのだから。








***



ごめんなさい。
自分でもよく分からない。何でいきなり仏英?いや好きですけど。
短くてすみません。イギリスこんなキャラだったっけか。ていうかここはどこですか。(多分イギリスんち)
元々夢用のネタだったんですが、「これ仏英でいけんじゃね?」と思ってしまってつい書いてしまいました…。
元の形の小説はもしかしたら自サイトの携帯日記とかにUPしたりするかもしれません。
とりあえず、最後の台詞がいろいろ悪い方向にいきそうだったのを無理矢理健全なほうにしました。
いや仏英に健全も何も無いと思うけどね!(待

080116*水霸